雨が降っていた。
ザーザーと、いい音を出しながら地面に当たっていく。
どんどん水たまりは大きく、多くなり、今、外へ出たら
制服にすぐ水が侵食してくるのは目に見えていた。
朝は雲が多く、もしかしたらと思っていたら、この有様。
外の様子を見ながら、は下駄箱の近くで立ち尽くしていた。
傘は持ってきていない。
折り畳み傘も、今日に限って家に忘れてしまった。
ため息をつき、自分の運の無さを呪う。
…こんなことなら、朝遅刻してでも折り畳み傘を
かばんの中に入れておけば良かったなぁ…。

「(あ、でも、そうしたら風紀委員からの厳しいお叱りが待っているんだっけ)」

そんなことを思い、雨が降り止むまで待とうと、近くの段差に座り込む。
誰もいない下駄箱。
怖いくらい静かな廊下。
響くのは、雨が地面に当たる音との息遣いだけ。
友達と一緒に帰りたくても当の本人は部活でおらず、今は自分一人。
は友達の部活が終わるまで待とうと
今日、数学の先生から出された課題を取り出した。
外を見てみるが、雨の勢いはおさまりそうになかった。

「(あーあ。早く、やんでくれないかなぁ…)」


******


は、プリントに走らせていたペンを止めた。
目の前にはわからない数学の問題。
その名は二次関数。

「(え、ていうか、これ、習ったっけ…?)」

頭をフル回転させてみるが、やはりわからない。
…最近まじめに授業を受けていないせいか!
内心叫びながら、ふと、顔をあげてみると。

「…!(ご、獄寺君…!!)」

向こうからクラスメイトがこちらを見ながら歩いてくる。
手をズボンのポケットに入れていて、まさしく不良が似合うその格好。
いつもの不機嫌さはそのままで、さらにその顔には怪訝さがうかがえる。
そりゃ、そうだろう。
なにしろ下駄箱の前で段差に座り込み、クラスメイトが課題をやっているのだから。
だけど、はそんなことよりも、ただ彼に会えたことに感動していた。
獄寺隼人にが恋をしている、というのはクラスで知らない人がいないくらい有名だ。
あくまで、本人を除いてだが。

「…お前、そんなとこで何やってんだ」
「(! は、話しかけてくれた!! どうしよ!!)
  えっと、き、今日配られた、数学の課題…」
「課題?なんでこんなとこで」
「それは…」

そう言いながら外を見ると、意味がわかったのか
あぁ、と納得の声を上げる獄寺。
そんな彼をみながら、は今日はラッキーだ!と
さっきまでと全く違うことを思う。
すると、そんなに一言、獄寺が言った。

「なぁ、その問題わかんねぇんだろ?」
「え!? なんでわかったの…?」
「消し跡けっこうあんし、そこだけ埋まってなかったから」
「…な、なるほど…」
「んで、傘もねぇんだよな?」
「う、うん…」
「俺んち来るか?」

え!?と思わず大声をあげると、うるせぇ、と言う声。
はわたわたしながら謝り、彼を見てみると。

「(わ、笑ってる…!)」
「傘なら俺が持ってるし、その問題も教えてやる」
「え、でも…」
「いいだろ?」

そう言い、返事を聞かずに下駄箱へ足を進める獄寺。
慌ててが課題をしまい、彼に追いつこうとする。
途中こけそうになったに一言「馬鹿だろ」と言った彼の声は届いてない。
が靴を下駄箱から取り出している時には、獄寺はすでに靴を履き終わり、を待っていた。

「ご、獄寺君、迷惑じゃない?」
「別に、今日はやることねぇし」
「でも、家の人は…」
「俺、一人暮らししてる」
「え、あ、ごめん…」
「謝んなよ。ほら、入れ」
「……!!」

そういって、獄寺はの肩をつかみ、引き寄せ、傘に入れる。
は緊張で身体が固まるが、獄寺が歩き始めるのでも慌ててついていく。
雨はまだ強いが、獄寺の傘が大きいため二人とも濡れずに済みそうだった。
獄寺はに合わせてくれているのか、歩調はゆっくりとしている。
だが、心臓の音と雨の音での頭の中は混乱しそうだ。

「(…し、幸せだぁ…!!)」
「…なぁ、
「!は、はい!?」
「俺が、お前の好きな奴知ってたら、どうする?」
「え?今なんて…」
「…。なんでもねぇ」
「? …!!」

ふいに右手が暖かくなる。
その原因は、隣の体温が手を通して伝わってくるから。
このぬくもりにの混乱はまだまだ続きそうだった。
そして、このあとに来る、唇へのぬくもりにも。


Warmth of this hand
(この手の暖かさ)