獄寺くんは、沢田くんのことばかりだ。
いつもいつも「10代目!」って言って、彼のもとへ駆け寄る。獄寺くんはなぜか沢田くんを慕っていて(敬語まで使うほどだ)、常に彼と一緒にいる。沢田くんも獄寺くんの行為を断れずに、私に申し訳なさそうにしている。獄寺くんは、朝も、昼も、放課後も、帰りも、休日も、全部全部沢田くん。男相手に嫉妬する私もどうかと思うけど、仕方ないと思う。
だって、今日は久しぶりに2人っきりの帰り道。私は授業中からすごい楽しみにしていて、嬉しかったのに。獄寺くんは、やっぱり沢田くんのことばかり。

「10代目、今頃再テストか…」
「…」
「合格なさってるかな…」

獄寺くんは心配そうにため息をつく。私は喉まで来たため息を押し込む。
いつものことじゃない、大丈夫、大丈夫。

「…昨日、沢田くんの家で勉強したんでしょ?」
「そうだけど…。あぁ、すっげぇ気になる!」
「…そんなに気になるなら、行ってきたらどう?」
「…おう。10代目には先に帰って、って言われたけど行ってくる」

んじゃ、また明日!と言って、彼は走って行ってしまう。私は抑えていたため息を吐き出す。沢田くんのところに行ってきたら?と提案する私も私だけど、それであっさりとひきかえす彼も彼だと思う。もう少し躊躇っても、いいんじゃないのか。
もう一度、深いため息をつく。彼と付き合えることになって、最初はすごい嬉しかったけど、こんな毎日が続くと、いい加減悲しくなってきた。
――私からの告白で、彼はOKしてくれたけど…。
――本当に彼は、私のことが好きなのかな…。

空を見上げると、そこにはどんよりとした雲。
家に帰すと、明日も曇りだと天気予報が言っていて、なぜかさらに悲しくなった。

***

「10代目っ!やっぱり気になって迎えに来ました!」
「え、獄寺くん!?どうして?」
「10代目のことが気になって、つい」
「え、ちゃんは…?一緒に帰ってたんじゃ?」
は先に帰りましたよ」
「…。家までちゃんと送った?」
「?いいえ、途中で別れましたが…」
「…獄寺くん、ちゃんのこともっと大事にしてあげなよ」
「…10代目?」

***

朝、とても驚いたことがあった。昨日の帰り道のことを頭から振り払って、いつものように学校へ行く準備をする。獄寺くんと一緒に学校行けたらいいな、だなんて思って家のドアを開けたら。そこには、私の彼氏がいた。思わず何度も目を擦って確かめてしまう。私の想いが作り出した幻かと、本気で思った。けど、彼が私に話しかけたから、幻ではないことがわかった。

「…そんなに目ぇ擦るなよ」
「え、あ、うん」
「学校、行くぞ」
「う、うん!」

そう言って歩きだす獄寺くんの隣に行く。いつものような、ちょっと不機嫌な顔だった。けど、実際の機嫌は悪くないことはいつも彼を見ていたから、わかる。
しばらくして、獄寺くんは今日、私を迎えに来てくれたんだ、と理解する。そして、実感。途端、胸から熱いものが込み上げてくる。純粋に、嬉しかった。いままでのことがあったから、あり得ないと思ってた、のに。
鼻がツンとする。頑張って溢れるものを抑えた。

***

「獄寺くん」
「10代目!おはようございます!」
「お、おはよう。ねぇ、朝、どうだった?」
「…」
「…そっか」
「す、すみません!」
「ご、獄寺くん!違う、違うから!」
「え?」
「あ、謝るのは僕じゃなくて、彼女でしょ?」
「…はい」
「獄寺くん、頑張って。オレ、今日も再テストだからさ、放課後にでも。ね?」

***

今日の朝、驚くことがあった。そして、放課後。またまた、驚くことがあった。
いつものように教室で帰る準備をしていたら、廊下で黄色い声が聞こえた。誰が来たんだろうと思って視線を向けると、朝と同じ表情の私の彼氏。驚きでまた目を擦りそうになったけど、朝の彼の言葉を思い出してとどまる。なんで来てくれたんだろう、と思っていると彼が私のほうへ向かってくる。思わず緊張で背筋がピンとなる。
なぜなら、彼と学校で話すのは滅多にない。彼はいつも沢田くんと一緒にいるから。

「ご、獄寺くん…?」
「…、帰るぞ」
「え、え、沢田くんは…?」

私の発言に彼の顔の不機嫌さが増す。わわ私何か気に障ること言った…?内心で慌てていると獄寺くんが私の腕を掴む。

「行くぞ」

それから獄寺くんに腕をひかれて学校を出て、昨日と同じ2人きりの帰り道。
私的にはすごい嬉しい。2日も一緒に獄寺くんと帰れるだなんて、これからの幸運を使い果たしたんじゃないかと思う。今はもう腕は掴まれてないけど、獄寺くんの体温がまだ残ってる気がする。
けど、1つだけ嬉しくないことがある。
獄寺くんの顔には元気がない。それに、まだ不機嫌さが残ってる気がする。今日の朝は不機嫌そうな顔だったけど、今のとは違う。何が彼を不機嫌にさせているのか。私には1つ思い当たる節があった。それは、教室で私の発言に眉を寄せた彼。
もしかしたら、沢田くんと喧嘩をしたんじゃないのか。
それが、私の出した結論だ。

「…ねぇ、獄寺くん」
「なんだ」
「沢田くんのところ、行かなくてもいいの?」
「…なんでそこで10代目が出てくるんだ」

私は確信する。やっぱり、喧嘩したんじゃないか。
昨日の帰り道、私は獄寺くんが沢田くんの話しばっかりしてて、寂しかったし嫉妬した。けど、彼を笑顔にさせてるのは沢田くんだ。私は獄寺くんが元気がないのは嫌だ。でも、彼を元気にできるのは私じゃない。沢田君だ。だから、早く2人に仲直りしてほしい。

「だって、2人、喧嘩してるんでしょう?」
「は?」
「獄寺くん、朝とは違って元気もないし、不機嫌な感じだし…。ねぇ、獄寺くん。私の事放ってていいから、沢田くんと仲直りしてきてよ」
「…何言ってんだ、お前」

獄寺くんの足が止まる。

「…別に、10代目と喧嘩なんかしてねぇよ」
「え、そうなの?」
「あぁ」

喧嘩してない、という答えにはほっとしたけど、じゃあなんで獄寺くんは元気がないのか。考えてみるが、わからない。獄寺くんも私と同じように少し考え込むしぐさをする。しばらくしてから、口を開く。そこから出てきたのは思いもよらない言葉だった。

「…悪かったな」
「え?」
「心配させたり、気遣わせたりして」

まじまじと獄寺くんの顔を見る。彼は気まずさそうにそっぽを向きながら話し続けた。

「昨日だって、そうだろ」
「…昨日?」
「一人で、帰らせたじゃねぇか、俺」
「あ、うん」

獄寺くんはそういってから、一旦息を吐き出す。それから、意を決したようにして言い放った。

「…俺、ちゃんとのこと好きだから」
「え、な、名前…!」
「10代目が仰ってた、お前が不安がってるって」
「10代目は、俺のボスで、尊敬すべきお方だ」
「でも…。お前も、俺にとって大事な存在だから」


私は何も言えなかった。朝と同じ状況。いや、朝以上だ。嬉しい、嬉しすぎて、何も言えないし、溢れてくるものを堪えるので精一杯だ。途中から、獄寺くんの顔を直視できない。

「…行くぞ」

獄寺くんが私を引っ張る。視界に入る獄寺くんの手は、教室の時のように腕じゃなくて私の手を掴む。私はその手をゆっくりと握り返す。私より大きい、暖かい掌に包まれた。


を包む



私はでも、綱吉くんを超えようとひそかに思った。
(HAPPY BITHDAY HAYATO GOKUDERA!!)