「とりっく おあ とりーと!」

お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!
そう続いた可愛い後輩の言葉に、笑みが零れる。
英語が苦手な赤也は、外国語の部分はなんだか拙いけど、それだからこそ、言いたいことは簡単にわかる。は前々から用意していたお菓子をポケットから取り出す。こういう行事が好きなこの後輩なら、ハロウィンに絶対に乗っかってくるだろうと思ったが、どうやら大当たりらしい。

「はい、お菓子。ちゃんと用意してたよ」
「わ、先輩さすが!ありがとうございまっす!」

笑顔で、本当に嬉しそうに受け取る赤也を見て、笑み。こんな可愛い後輩、どこにもいないだろうと思う。は男子テニス部のマネージャーをしているが、他の後輩は皆 ごつい か かっこいい かのどちらかばっかり。少なくとも、「可愛い」後輩は今のところ彼しかいない。(テニスをしていると変貌してしまう時もあるが、そこは気にしない。)

「他の先輩には回ったの?」
「いーや、まだです。というか回っても何もくれなさそうで…」

むしろ逆に、悪戯されそうです…。と続いた意見に、苦笑いと共に同感するしかなかった。立海の3年生たちは変わり者ばっかりだ。さっきの言葉を先輩たちに言うと、説教をされるか、逆にお菓子を欲しがられるか、奪われる。あの銀髪のところに行ったならば、容赦なく悪戯をしてくるだろう。さっきは花が咲きそうな笑顔で喜んでいたのに、それとは逆に、今は花が枯れたようにしょぼんとする赤也。そんな赤也の表情の移り変わりもは好きだ。素直で可愛いなぁ、と思わず頭を撫でたくなる。
「先輩」と、の思考の中心にいた赤也に呼ばれる。どうした?と、そう聞こうとして、ふと違和感を感じる。

「先輩、とりっく おあ とりーと!」
「…え、さっきあげたじゃん」
「もうないです」
「え!」

違和感の正体はこれだった。さっきまで、後輩の手にあったお菓子。それがもう無くなっていたのだ。が思考に耽っていたときに食べきってしまったのだろう。さすが育ち盛りの中学2年生男子、赤也。食べるのが早い。変に感心してしまうが、それどことじゃない。「とりっく おあ とりーと」と言われても、にはもうお菓子はもってない。さっきのしかなかったのだ。
若干戸惑いながら、小さく反抗する。

「そんなこと言っても、もうないよ」
「えー。じゃあ、悪戯してもいいんですね?」
「いやいや、さっきあげたじゃん!」
「それはもうないんですよー」
「そんなこと言われてもね…。ないもんはない!」
「ふーん」

じゃ、悪戯決定ですね!
楽しそうに言う後輩に何する気だと一瞬構える。くすぐられるか、髪をぐちゃぐちゃにする気か。まさか「俺と試合してください!」というつもりか。正直勘弁願いたい。何が来るのか内心軽く身構えていると、予想していたものとは全く違った悪戯が来た。

それは、目の前にどアップの赤也の顔。きょとんとしているに向かってくるのは、唇と頬へ連続で温かい感触。その感触は、柔らかい。赤也の顔がいつものサイズに戻った時、その顔にはニコニコと悪戯の成功した表情。どんな悪戯か、それを理解した瞬間、硬直する体。顔が赤くなっていくのが、自分でもわかった。

「先輩、俺のこと可愛いとか思ってるでしょ?」

そう彼が言ったと思ったら、またまたどアップ。身体の硬直は治らず、恥ずかしさで目をぎゅっと瞑っていると、今度は耳元にあの感触。そして、耳元で響く、いつもより低い彼の声。

「俺、可愛いだけじゃないんですよ?」

腰が砕けそうなその囁きに、はますます、顔を赤くすることしかできなかった。



とりっく おあ とりーと !

お菓子くれたってくれなくたって…。 悪戯するのは決定済みなんですよ!