|
放課後、すでに日は落ちて辺りが薄暗い中、私はテニス部の部室に足を進めていた。 別にテニス部の部活が終わるのを待っていたわけではなく、いつもより私の部活が遅く終わってしまったのだ。そこで、こんな暗い中で一人で帰るのは怖いし悲しいから、彼氏の部活も終わるころだし、たまには一緒に帰りたいな、なんて思って部室に向かっている。いつもは「待たずに先に帰れ」って言われてるから、学校にいないはずの私がいたら、彼はどんな反応をするんだろう。怒るかな、驚くかな。理由を話したら、納得してくれると思うんだけどなぁ。 そんなことを思いながら、話し声が聞こえる部室をノックする。ちょっと緊張しながら待ってると、出てきたのは彼氏ではなく黒髪がくねっている男の子。可愛いな、なんて思ったけど、その男の子は私のことをじーっと黙って見てる。それはもう、穴が開くんじゃないかってくらい。これって絶対私、不審者のように見られてるよね…? 「えっと…何すか?」 しかも今度は睨まれてるよ!可愛さ半減だよ! 黒髪くんに睨まれてるせいで、私は何もしてないのにたじたじ。目線が怖い。 「え、えと…。真田くん、います…?」 「は、副部長?」 言われた人物にきょとんとする黒髪くん。睨むのをやめて、再び私を不審そうな目で見てから「真田副ぶちょー、お客さんっすよー!」と声を張り上げた。それと同時にさっきまではざわざわしてた部室が一気に静かになる。え、なんでみんな喋るのやめるの!今度は内心わたわたしながら真田くんを待つ。すると奥から「客?」と真田くんの低い声。ドキッとしたのは言うまでもない。すぐに真田くんは出てきて、私の姿を見るなり驚いたように名前を呟かれた。目も結構開いてる。 「?なんでいるんだ?」 「真田くん、部活お疲れ。実はね、私今日の部活遅くなっちゃって」 「こんな時間までか?」 「うん。だから…一緒に帰りたいなぁ、って…」 真田くんの声色が堅くなって、私は彼の目を見る勇気がなくなって、ちょっと俯きがちに言う。すると、今度は、上からちょっと唸るような声。 もしかして、お、怒ってる…?ビクビクして真田くんの返事を待つ私によぎるのは、数ヶ月前のこと。 付き合い始めてあまり経ってない頃、真田くんと一緒に帰りたくって、一度彼の部活が終わるのを待っていたことがある。私としては、真田くんはこんな時間まで部活してるんだなぁ、とか、遠くからテニスしてる姿見ながら、やっぱりかっこいいなぁ、とかいろいろ思うことがあって良かったんだけど、真田くんは違ったようで。すごい剣幕で怒られた。涙出るかと思った、あの説教。周りにいた人からも憐みとか好奇心とかで見られてたから、あれから私はちゃんと一人で帰るようになった。他のテニス部員さんにも先に帰ったほうがいいと言われたし、私個人としてもあの説教はもう勘弁だから。 でも、今回は仕方ないよね。私の部活が遅くなったんだし…。理由が理由だから、怒らないでくれるはず…。 俯いて考え込んでいると、頭にぽんっと手をおかれた。部活した後だからのか、暖かさが伝わってくるようだった。ゆっくりと顔をあげてみると、眉が少し下がった、仕方がないな、とでもいうような真田くんの表情。いつもと違うその優しげな顔にもどきっとしてしまう。あぁ、私、真田くんにどきどきしてばかりだなぁ、なんて、ちょっと思った。 「わかった。家まで送ろう」 「え?いや、途中まででいいよ?」 「そういうわけにもいかん。女子を暗い中一人で帰らせるなど、言語道断」 「え、でも真田くん疲れてるし…」 「…それに、だからな、尚更だ」 「えっ」 言われた私はもちろん、言った本人も恥ずかしいのか、お互いに顔を逸らしあってしまう。絶対私の今の顔は真っ赤っか。真田くんに、こういうこと言われるのは慣れてなくって、どう反応していいのかわからない。かろうじて小さく「…じゃあ、よろしくお願いします…」と返事をする。すると真田くんは満足したように相槌をしてから、もう一度私の頭に手をおく。真田くんに送ってもらうのも、いいかな。ちょっと悪い気はまだするけど。やっぱり部活の後に送るのは辛いんじゃないかな。そんな私の疑問を遮るように、横から第三者の声。 「ごちそうさまでした…。」 「っ、赤也!」 「えっ」 フレッシュ・カップル!
黒髪くんがいたってことだけでもう赤面しちゃうのに、加えて「先輩達…初々しいっすね」とかなんとか言われたらもう、恥ずかしさで死んじゃいそうだった。 |