彼女 と 後輩




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「ずいぶんな無茶をしたのね。まぁ、これくらいなら足を冷やしておけば大丈夫だと思うけど…。でも、しばらく走ったりするのは駄目ね。体育は見学、部活もできたら参加せずにいてほしいくらい」
「…はい」
「もし痛みが引かないようなら、ちゃんと病院に行くこと。切原君、私は会議にいってくるから、さんをよろしくね」

そういって、の手当てをしてくれた後、先生は保健室を後にした。
保健室に連れてきたとき、先生はすごい驚いていた。けど、赤也が「先生」と呼ぶとすぐに動いてくれた。それからは、赤也はだたそれを見ることしかできなかった。
が横になっているベットに近づく。が抱え込んでいた足には、今は氷が添えられている。さっきまでとても苦しそうな表情だった。今はそんなこともなく、赤也は安心していた。

「…赤也、ごめんね」

赤也が近くに来たのを知って、が口を開く。何に対して謝っているのか、赤也はいまいちわからない。だから、何も答えずにいると、が話し始めた。

「…実はさ、私が中1の時、足に怪我したのよ」

静かなの告白に赤也は思わず声を上げる。そんなこと、知らなかった。1年間、全く会えなかったけれど、その間に怪我をしていただなんて。赤也の驚愕に構わず、の告白は続く。

「それでさ、病院に行ってみたら、テニス出来るかどうかは分からないって。今はとにかく治すことに専念しろって言われた」

それから、病院に数カ月入院したこと。その間、テニスはもちろん、筋トレもごく限られたものしかできなかったこと。そして、数ヶ月間入院したけど、医者からはいい返事がもらえたことがなかったこと。
は静かに話し続けた。赤也はその間、ずっと黙っていた。

「今は、一応退院って感じ。私が学校行きたいって、すっごい駄々こねたからしぶしぶ許可してくれたの」

これで病院に逆戻りだな、と苦笑いする。赤也は、思ったことを口に出す。

「…なぁ、なんで試合したわけ。もう少し待ったら、ちゃんと試合できたかもしれねぇのに」
「…怖かったから」
「怖い?何が?」
「私の足が治っても、あの頃の私じゃないでしょ。赤也には、どうしても負けたくなかった。」

俯いて、は言う。さっきまで見えてた表情が隠れて、赤也は不安に駆られた。

「いくら病院で足の完治を待ったって、その分、体力はどんどんなくなっていく。足が完治したって、全力の私で、赤也と試合できないことが、すごい嫌だった。
…あのね、怪我をしたとき、最初に赤也との約束のことを一番に思ったの。もう約束は果たせないんだって。それが、すごい悲しくて、悔しかった」
「…
「だから、もうこれ以上待てなくなって、学校に無理やり通ってた。試合は、本当は今週の土日にみんなに秘密でしようと思ってたんだけど、昨日赤也に殴られて、待てなくなった」
「マネージャーになったのは…」
「赤也の都合がわかるし、話しやすいから。…女テニは、知らない間に退部扱いになってたし」
「…そっか」

沈黙が二人の間に降り注ぐ。後悔とか罪悪感とか、今の赤也にはそんな感情が大きな割合を占めていた。
もし、これでがテニスできなくなったとしたら、どうしよう。が手加減しないでよって言ってたけど、やっぱり少しはボールの威力とか加減したほうがよかったんじゃないのか。あんなにを走らせるような場所にボールを打つんじゃなかった…、と。
そんな赤也の思考を読み取ったかの様に、が喋りだす。

「…赤也、もし今日のこれでテニス出来なくなったとしても、私に後悔はないよ」
「…なんで」
「だって、最後の試合が赤也とだし。途中で私が倒れちゃったから、勝敗決まってないのがあれだけど…」
「…何言ってんだよ、あれは確実に俺の勝ちだろ?」
「赤也、私の土壇場の力をなめちゃいけないよ?」

しばらく2人で言い合いをして、ははっ、と今度は2人で笑いあう。2人は笑いながら思い出していた。自分たちがまだ小学生の頃も、よく試合が終わった後にこうやって笑い合っていたことを。くだらない2人の意地の張り合いが、いつもいつも絶えず、それが面白く、テニスと同じくらい楽しかった。
保健室のあいている窓から風が入ってくる。心地よい風が二人の間をぬって行く。懐かしい時間にしばらくの間、2人の会話に沈黙は訪れなかった。

**********

「それじゃ、部活に戻ろうか」
「…歩けんの?」
「うーん、まぁ大丈夫でしょ。今のところ痛みもひいてるし」

赤也はため息をつく。そういえば、は変なところで適当だった。本当に、変わってない。自分の足なんだから、もっと大切にしろよ、と思わず言いそうになる。

「いざとなったら、おぶっていくからな」
「はは、よろしく」

は1人でゆっくりとベットから降りて、少しずつ歩きだす。赤也はこれですぐに手伝ったらの機嫌がよくならないことを知っていたので、何もしなかった。その代わり、氷がもう半分ほど溶けていたのでてきぱきと詰め替える。すぐにに追いついた。
また2人の間には会話は無く、吹奏楽の楽器の音や、運動部の元気な声があった。その中にテニス部であろう音もあった。
でも、気まずさは一切ない。

「…私、赤也と最後に試合が出来てよかったよ」

外に出て、周りの音が校舎内よりも大きくなってから、が不意に呟いた。赤也は咄嗟に返事ができなかったから、聞こえてないふりをした。目から、何かが溢れてきそうだった。
気がつくと、目の前にテニスコート。柳生が心配そうにこっちを見ている。仁王はまだ気づいてない。が、3強達の表情はよくない。赤也とは顔を見合わせ苦笑いをする。

「(あぁ、こいつはもう、テニスができないんだな)」

がゆっくりと、でも、さっきよりも早くコートに歩いて行く後ろ姿を見て思った。

こいつの分まで自分が頑張ろう、とも。



(100929)