彼女 と 後輩




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「はぁ、はぁ」

ボールを打ち返す音が響く。
赤也は確信していた。やっぱり、は弱くなっていた。1年前は楽に返していたボールを、今さっきはなんとか返せた、という感じだった。ボールの威力も、スピードも落ちている。力をあげることが出来なくても、維持することはできるんじゃないか。やっぱりこの1年間、ほとんどテニスをしていなかったのか。

「っ!」

からボールが返ってくる。女と男の力の違いもあるのだろうが、赤也は納得がいかなかった。
赤也がボールを打ち返す。もちろん、手加減はなしだ。赤也はがどれだけ弱くなったのかを本人に実感させたかった。そして、赤也があれから、どれほど強くなったのかも。
2人の1年ぶりの試合。得点は、言うまでもなく赤也のリードだった。
そして、そんな試合を中断させる声が上がる。

さん!」
「お前ら何しとるんじゃ」

柳生と仁王だった。は2人が来て、見るからに焦っていた。なぜかは赤也にはわからないが。

「切原君、今すぐやめたまえ!」
「…なんで」
、まだ治っとらんのんじゃ。悪化するぞ!」
「仁王!お願い、っやらせて!」
「駄目じゃ!」

悪化?まだ治ってない?
赤也は意味のわからない会話に耳を傾ける。だが、そんなの気にしなかった。どうして2人しての試合を止めさせたいのかはわからないが、赤也にとっては邪魔でしかない。試合は続けた。
しかし、それは叶わなかった。赤也の打ち返したボールは、返ってこなかった。

!」

仁王と柳生が駆け付ける。赤也は意味がわからなかった。
が、倒れた。
の息は上がりきり、足を抱えこむようにして横になっていた。柳生が心配そうにしている。仁王の怒鳴り声が響く。

「何やっとんじゃ!」
「に、おう…」
「なんでこんな時にテニスするん、そんな赤也と試合せんとだめなんか!」
「仁王君、落ち着いて」
「誰がこんな時に落ち着いてられるか!」

赤也は3人のやり取りを眺める。それしかできなかった。あの飄々としている仁王が取り乱しているだなんて、そんなには試合をやってはいけなかったのか。
茫然とする赤也。仁王がこちらを向く。その瞳は、内に静かな怒りの宿った、冷やかなものだった。

「赤也」
「…何ですか」
「ちょっとこっちきんしゃい」

仁王の言う通りにする。柳生はのことをただ心配していた。は苦しそうに丸くなって足を抱えていた。
赤也が仁王のそばに立つ。すると、何も言われず仁王に殴られた。俺、昨日のみたいだな、だなんて、暢気にそんなことを思った。
柳生がこちらを振り向く。その眼は仁王とよく似た、とても冷たいもの。

「仁王君、切原君を殴っても何もなりません。私はさんを保健室に連れて行きます。それまでに2人とも頭を冷やしてください」

嫌だ、と思った。を今、どこかへ連れて行かれたくなかった。
そんな思いで、とっさに柳生を呼びとめる。

「柳生先輩」
「何ですか、切原君」
「…俺が、を連れていきます」

柳生が静かに赤也を見る。あの冷たい瞳に見定めるように見られて、硬直する体。しばらくしてから「いいでしょう」と許可が下りる。思わず体から力が抜けた。仁王が柳生の名前を呼ぶ。

「柳生、でも」
「少なくとも、今の仁王君よりは切原君のほうが冷静です」
「…」
「切原君、幸村君達が来たときのことは私たちに任せてください」
「…お願いします」

赤也はの様子をうかがう。「大丈夫か」 だなんて、聞けなかった。

「…痛かったら、言えよ」

そういって赤也は、をゆっくりと、丁寧に背負う。柳生も手伝ってくれた。
赤也はいそいで保健室に向かう。できるだけに負担をかけないようにすることを忘れずに。
保健室に連れて行こうとし走り出す瞬間、背後から、とても小さい仁王の声が聞こえた気がした。




(100928)