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7; 「赤也ぁ〜、聞いたぜ?先輩帰ってくるんだって?」 朝の教室で、入って一番に絡んできたのは赤也の友達である巧。巧の顔つきから、赤也は嫌な予感を感じていた。あの時の仁王みたいに。赤也と巧の席は近いので、嫌でも彼に近づくことになる赤也は、そこで朝一番のため息をつく。 「…お前まじ朝から何なわけ?つかんなことなんで知ってんの」 「へへっ、俺の情報網なめんなよっ」 「…」 巧の言葉を無視して一旦席に座る。あの、との試合をした日から、巧はしょっちゅう赤也にの話題を振っていた。もうすでに赤也はその話題に聞き飽きていて、だから頬杖をついて巧の言葉を受け流す準備は万端だった。が、それはいつもとちょっと違う、友人の発言に不実行で終わる。 「んで?先輩戻ってくるし、赤也どうすんの?」 「…は、何を」 「決まってんじゃん。好きなんだから、行動起こすんだろ?」 「…はい?」 赤也は巧の言葉に目を点にさせる。彼の文脈からいって好きという動詞に、赤也が、先輩を、という主語と目的語が入ることは予想がついた。が、ありえない。ありえないとしか思えなかった。巧にはほとんど何も話していないが、あの日赤也は確かにの分まで頑張ろうと思った。何を、と聞かれたら何とも言えないが、そう思っただけなのだ。ただ、それだけであって。 しかし巧は大きな勘違いをしているらしく、赤也の隣で何故かをほめちぎっていた。あの髪は綺麗だとか、身長も俺の理想にぴったりだとか、性格も綺麗だとか。ツッコミどころ満載の巧の発言に、思わず赤也は沈黙。しかし巧はそんなこと気にせず、最後の締めくくりに赤也の同意を求める。 「しかも、敏腕マネージャーときた!美人で有能とか、最高だろ?」 ほぼ肯定近い巧の疑問形のついた独り言をBGMに、赤也はもう一度ため息を吐きながら彼を視界から除き、窓からグラウンドを見た。 『赤也ぁ〜、聞いたぜ?先輩帰ってくるんだって?』 ふと、巧の開口一番のあの言葉が脳裏をよぎる。と会うことに対して緊張とかはしてないけど、どう接すればいいのか、赤也は少し迷っていた。この前の試合の後、あれからはほとんど喋れなかったし、が病院にいる間、他の部員はよく見舞いに行っていたが、赤也は最初にレギュラーで行ったっきり。それ以降は、会うことは禁止となっていた。幸村が「お互いに罰ね。また何しでかすかわかんないし」と笑顔で言っていたのを思い出す。赤也は重い息をふぅとグラウンドに向けて放つ。 が帰ってくるのは、今日だ。 今日の部活はミーティング。先輩から回って来た連絡によると、練習試合が今週末にあり、さらにが帰ってくるということで、部室に授業が終わり次第すぐに集合、ということ。 だったのだが。 「――っ、英語まじ滅しろ!」 走りながら叫んだその台詞は、誰に聞かれるでもなく消えていった。 赤也は英語の再テストで、遅れて部活に参加することになり、部室に向けて必死に走っていた。先輩に再テストで遅れるだなんて言ってないから(というのも赤也が先生に言われるまで再テストの存在を忘れていたからだが)、部長・副部長が絶対怒ってる。グラウンド何周走らされるかわからないし、真田には鉄拳を喰らうかもしれない。両方勘弁だった。 確か入部届けをもらいに行く日もこんな感じだったような気がする、と春のことを思い出していると、いつもならこんなに遠く感じない部室が、ようやく見えてきた。 「おっ、遅れましたーっ!」 「赤也ぁ!遅刻とはいい度胸をしているな!」 「ひっ」 部室のドアを開けた先には、鬼のような形相の真田が待ち受けていた。腕を組み、仁王立ちをして赤也の前に壁のように立ちはだかる。やっぱり怒ってる!と体を縮み上がらせながら、走りながら組み立てた言い訳を必死に並べる。 「英語の再テストがあったんですよ!しかも知らされたのが放課後になってからで!」 「ほぅ、英語の再テスト?もちろん合格をもらってきたのだろうな?」 「えっ…と、それは…」 「大体、抜き打ちテストでもない限り、直前にテストの、ましてや再テストの有無を教えないことなどまずない。先生の話を聞いてなかったんだろう」 「ぐっ…」 「このたわけがっ!」 思わず言葉を詰まらせたのは、返す言葉がなかったからのと、真田の弾丸のような説教に反論する元気がなかったから。確かに他の再テストのメンバーは今日再テストがあることを知っていたし、巧に聞いたら昨日と今日、しっかり先生は連絡をしていたらしい。赤也はそのとき他の考え事で、確かに先生の話を聞いていなかった。 「それくらいでいいじゃないか、真田」 凛とした声が赤也と真田の間に入り込む。真田の後ろ、つまり赤也の前には、部長の幸村がいた。「やぁ赤也、来るのが遅かったね」なんて笑顔で言いながら、内心では笑顔なんかじゃないことを赤也は数カ月の付き合いで知った。真田は急に割り込んできた幸村に、少しばかり渋い顔をする。 「幸村、しかしだな…」 「ふふ、大丈夫だよ。赤也の今日の部活は英語だから」 「…ふむ。そういうことなら、よかろう」 「うっわ…まじかよ」 「何言ってんの赤也?もしかしてグラウンド何十周のほうがよかった?」 「めめ、滅相もございません!」 顔を青くする赤也に反して、幸村はやっぱり笑顔。付け加えられた「ちゃんと勉強した成果は、俺や真田に見せるんだよ?」という言葉に、サボれないなと赤也は悟った。 「あ、なんなら、に教えてもらったら?確か、英語得意だったよね?」 「あぁ。確かにあいつがいれば、赤也が怠けることもなかろう」 そのあとに続いた幸村と真田の会話の中の、、という言葉にぴくっと反応する。そしてその言葉に反応したのは赤也だけではなく、奥にいる人にも幸村の声は聞こえたらしい、男子部の部室には似合わない、高めの声が返ってくる。 「なにー?呼んだー?」 真田と幸村の後ろを覗くようにしてみると、そこには久しぶりに見る、がいた。は顔だけこちらにむけていて、その手にはトランプ。どうやら相手は丸井とジャッカルらしく、その手持ちにはババがちらりと見えている。 そして、赤也はふと違和感を感じた。ジャッカルと丸井はトランプを続けていて、丸井がジャッカルの手札からどれを選ぼうか、ガムを膨らませながら悩んでいる。仁王は隅のほうで小さくなって寝ているし、柳生は柳と一緒に机に向かって何かをしている。その光景には、先輩たちがいることに対しては、違和感など全くない。ただ、この部室にがいることに対して、違和感を感じるのだ。 その違和感がもたらすモヤモヤとした、胸の中で渦巻く感情を振り切るように赤也は首を振った。真田が赤也の急な行動に首をかしげだが、赤也は気付いていないふりをして、幸村との会話に耳を傾けた。 「に、赤也の英語を見てもらおうと思って」 「赤也の英語?何、赤也って英語苦手なの?」 「あいつの点を見てみろ。気が遠くなるぞ」 「え、そんなにひどいの…?」 が可哀想なものを見るような眼でこっちを見てくる。居心地が悪くなって目線を逸らすと、運が悪くも、目線がかみ合ったのは仁王で。寝てたんじゃないかという赤也の疑問は、仁王のあの嫌な笑い方に蹴飛ばされた。慌てて仁王からも視線を逸らす。 「…あんなもん、言葉じゃねぇ」 柳も混じり、三強と赤也の英語の成績について話し始めるを視界の端にとらえながら、赤也はため息を吐いた。なんか、違う。そんな漠然とした違和感を感じながら、からババ入りの手持ちを奪って、丸井たちのトランプに参加することにした。 ←→
(120326)
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