彼女 と 後輩




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「一年、集合!」

放課後の部活で、テニス部の部長、幸村の声が響く。あの容姿から、考えれないテニスをする怪物。テニス部で三強とよばれる彼に入部当初、あっさりと負けてしまった。以外に負けたことのない赤也にとって、それは悔しい以外の何物でもなかった。しかし赤也と三強達との試合はすごかったらしい、赤也は実力を認められレギュラーとなり、2年に混じって練習が許された。
他の一年と合流し、幸村部長の周りに集まる。皆が集まったのを確認してから、幸村は話し始めた。

「皆に紹介しておけなければならない人物がいるんだ。マネージャーなんだけど、ちょっと訳があって今まで休んでた」

マネージャー、という単語にざわめきが生まれた。しかし幸村はそれを気にせずに話し続ける。

「それじゃ、紹介するね。!」

、という名前に赤也は小さい反応をみせた。だかしかし、赤也は期待していなかった。今幸村部長が呼んだ“”が自分の探している“”と同じわけない、と。実際赤也のクラスには、という名前の女子が1人いた。他クラスにも数人いたはずだ。そんなに少ない名前じゃないはず。赤也はそう思って、マネージャーのになんの興味も湧かなかった。
ただ、そのマネージャーの声を聞くまでは。

「マネージャーのです。練習は辛いだろうけど、頑張ってね。これからよろしく」

マネージャーの自己紹介に、赤也は逸らしていた視線を素早く向ける。声が、聞いたことのあるものだったからだ。幸村の隣にいる女子。髪は短く、背は赤也よりも低いだろう。そして、その顔は赤也の探していた、とほぼ同じだった。
同一人物だと、そう捉えるのに時間はかからなかった。だが、信じたくなかった。
赤也はそれから、部活が再開してもをじっと見ていた。それは、無意識だった。後から2年の丸井に「何マネージャーガン見してたんだよ」と指摘されれるまで気付かなかった。そのあとに続いた「もしかして、惚れた?」という問いかけには何も答えなかった。
赤也はテニスをしながら、ひたすら自分を騙していた。あのマネージャーは自分の知っているじゃない、あれは同姓同名の別人で、きっと自分を見て「はじめまして」っていうはずだ、と。
しかし、それは簡単に裏切られることになる。
部室で着替えている時。2年の先輩たちとじゃれあってると、マネージャーが部室に入ってきた。どうやら、部誌を幸村に渡しに来たらしい。赤也はマネージャーの行動を見ていた。また丸井に何か言われることを気にせずに。すると、マネージャーがこちらを振り向く。赤也は緊張していた。訳もなくドキドキしていた。そして、マネージャーが口を開く。
赤也にはそれが、スローモーションのように見えた。

「…久しぶり、赤也。2年と一緒に練習できるとか、さすがじゃん」
「…
「え?え?何々、2人って知り合いなわけ?」
「うん、小学の時、よくテニスしてた」
「あぁ、だから赤也は強いんか。納得じゃ」
「確かに、小学校の時からさんとテニスしてたら強くもなりますね」

赤也を置いて、周りで話が進んでいく。
赤也が小学校の時も生意気だったこと。赤也が一度もに勝てなかったこと。そのころから、のカウンターは無敗だったこと。しかし赤也はそんな会話、頭に入らなかった。
マネージャーのは、自分の知っているだった。あの、テニスが強くて、負けず嫌いで、赤也に中学になったら試合をしよう、と言ってくれた、あの。
何かが込み上げてくる。胸から、何か熱いものが。なんではマネージャーなんかしてるんだ。テニスは?自分との試合は?まさか、自分が負けるはずがないとでも思って、マネージャーというポジションにいるのか。
嘘だ、嘘だ、嘘だ!

「赤也?どうかしたのか?」

赤也の異変に気付いたジャッカルが声をかける。他の皆もジャッカルにつられて赤也を見る。久しぶりの再会だというのに、赤也の反応が薄い。も赤也の名前を呼ぶ。

「赤也?どうかした?」
「…なんでだよ」
「え?」
「なんでマネージャーなんかしてんだって聞いてんだよ!」

赤也の声が部室に響く。そのあとに、乾いた音。2年生は目を見開いた。
赤也が、を殴ったからだ。

「あの時のは全部嘘だったのかよ!?」
「おい、赤也、やめろ!」
「なんでマネージャーなんか…!」
「赤也!」

先輩の制止を振り払って赤也は部室を出ていく。途中すれ違った部員が驚いた顔をしていた。
赤也は走りながら、何かが溢れているのを感じた。裏切られて悲しいのか、自分を見くびられて悲しいのか。そもそも、これは悲しいという感情なのか。何なのかわからない感情を、赤也はただ走る動力源にした。
この気持ちの吐き場所を、赤也は知らなかった。



(100926)